金星の太陽面通過について知ろう!



地球と太陽、そして地球の内側を公転する金星が、地球−金星−太陽と一直線に並ぶ時があります。地球からは太陽面上を金星が移動していく様子が見え、これを「金星の太陽面通過」と呼んでいます。この金星の太陽面通過が6月8日、122年ぶりに起こります。この様子は日本でも見ることができ、14時10分ごろ金星が太陽面を通過し始めます(図1)。日本では金星が太陽面を通過している最中に日没を迎えてしまいます。よって、金星の太陽面通過の最後までは見ることができません。

図1:金星の太陽面通過の予想図

黒丸が金星で左から右へ通過していきます。この図は、観測者が地球の中心にいる場合です。時間は世界標準時なので+9時間で日本時間です。(NASA提供)

図2:金星の太陽面通過が見られる地域と時間帯(NASA提供)
黄色の地域は現象の初めから終わりまでが観測可能な地域です。逆に濃い青色の地域は、夜なのでみることはできません。



今回の金星の太陽面通過は122年ぶりに起きます。また、日本で観測できるものとしては1874年以来130年ぶりになるので、いつでも見られるものではないようですね。今生きている人にとって、6月8日は金星の太陽面通過を初めて見ることができる日になります。では、どうしてこんなに珍しいのでしょうか?

金星は584日の周期で地球に最も近づき、このとき地球と金星が並びます。だからといって、584日ごとに太陽面通過が起こるわけではありません。なぜなら、金星の軌道面が地球の軌道面に対して約3.4度傾いているので、地球と金星・太陽が一直線上に並ぶのは金星と地球の軌道面が交わっている2箇所だけです(図3)。この交点に来たときに金星の太陽面通過が起き、過去の記録から一定の周期(105→8→122→8年)で起こることがわかっています。今年の次は8年後の2012年ですが、その次は105年後というように頻繁に見ることのできない貴重な現象なのです。それでは、次に130年前に見られた時の様子を紹介しましょう。

図3:金星と地球の軌道面の様子。軌道の傾きは実際より強調しています。



130年前の観測の様子についてはいくつかの記録が残っています。金星太陽面通過は1874年(明治7年)12月9日に起きました。当時の日本は、1854年に日米和親条約を結び開国してから 20年が経っていました。ヨーロッパ並の近代化を計るために、学問から産業まで西洋文化の導入が行われていた時代でした。

日本は金星の太陽面通過の初めから終わりまでを観測できる好条件の地であったので、海外から観測隊が訪れました。フランスが長崎と神戸、アメリカが長崎、メキシコが横浜で観測を行いました。この中で、天候に恵まれて観測が成功したのは神戸と横浜でした。各地点には、当時の観測を記念して記念碑が建てられています。中には当時の観測台が残っている所もあります。また、日本独自の観測隊が東京、函館で観測を行ったようですが、詳しい記録が残っていません。「リンク集」では長崎、神戸、横浜の当時の観測に関するサイトを紹介しています。


<詳しい各地の様子については以下のホームページへGo!>

横浜 → http://www.natsuzora.com/may/town/momijizaka.html
神戸 → http://www.city.kobe.jp/cityoffice/83/base/mati/mati03.htm
長崎 → http://www.Nagasaki-city.ed.jp/starship




皆さんはどうやって地球から星までの距離を測ると思いますか?それには地球−太陽間の距離を「1天文単位(1AU)」とした便利な宇宙のものさしを用います。1AUというものさしのおかげで、私たちは恒星までの距離や宇宙全体の広さがわかりました。1AUは天文学においてとても重要な単位なのです。

しかし1874年当時は、1AUが実際に何kmなのか正確にはわかっていませんでした。ハレー彗星で有名な天文学者エドモンド・ハレーは、『金星の太陽面通過を地球上の各地で観測すれば、1AUを正確に求めることができる!』ことを発見しました。これに基づいて、めったに起きない金星太陽面通過を機会に1AUを求めようと、世界中の科学先進国が国の威信をかけて世界各地に観測隊を派遣しました。その派遣地の1つに日本が選ばれたのです。

昔の人たちが挑んだ1AUの測定は、皆さんでも行うことができるのです!それでは実際にどうやって求めるかを見ていきましょう。

ここで紹介するやり方は、ハレーのアイディアよりも簡単にしたものです。 当時は正確な時計がなかったので、別の工夫もしていました。





ここからは、「三角測量」という方法を使って1天文単位を求めていきます。途中で、三角関数(sin,cos,tan)というものが出てきます。「そんなの知らない!三角関数は苦手だ」という人もここで逃げずに!別のやり方を紹介しますので、こちらに進んでください。

● まず、金星・太陽間(VS)と金星・地球間(VE)が何天文単位になるかを求めます(図4)。
直線EVが金星の軌道の接線となるとき、金星は地球から見て太陽から最も離れた位置に見えます(最大離角と言う)。このとき三角形ESVは直角三角形になり、最大離角を とすると、金星・太陽間、金星・地球間の距離はそれぞれ



と表すことができます。 実際に最大離角 を測ってみると約46度になっています。 (最大離角の測り方が気になる人は、こちらを見てください。
もともと、地球・太陽間の距離を1AUと決めましたから、 上の式から金星・太陽間の距離は0.72AUになります。



<確かめてみよう!>
実際に、図4のような1つの角が46度の直角三角形を書いてみましょう。 そして3辺の長さの比を取ると、金星・太陽間の距離が地球・太陽間の距離の0.72倍になることが分かります。

さて、太陽面通過のときには、地球と金星と太陽とは一直線にならびます。 地球も金星も円軌道を描いていて太陽との距離が変わらないとすると、 太陽面通過のときの金星・地球間の距離は1AU−0.72AU=0.28AUとなります。
(厳密な測定によると、地球も金星も軌道は楕円で太陽からの距離が変わります。 けれども、その違いは地球の場合で1.7%、金星の場合で0.7%しかないので、 気にしなくてもほとんど影響はありません。この点では運が良いというべきでしょう。)

●地球上の2点A,Bで観測した時、太陽面上に投影される金星は図5のA',B'の位置に見えます。



AB間の距離は2地点の緯度と経度から求めることができます。
また、三角形ABVと三角形A'B'Vでは
・AB間の距離とA'B'間の距離
・金星・地球間の距離(0.28AU)と金星・太陽間の距離(0.72AU)
がそれぞれ対応しているので



と表すことができます。よって
      
  [km]

となり、太陽面上のA'B'間の距離を求めることができます。


● 次に実際の太陽の直径(D)が何kmになるのかを求めます。
その前に、金星の太陽面通過を観測した2点間の画像を用意し、画像の太陽直径を測ります。そして、2点間の画像を合わせて同時刻における金星の位置の差を画像から測ります。(図6)



先ほど求めたA'B'間の距離と求めたい実際の太陽直径D(図5)、画像上における金星の2点間のずれと太陽直径(図6)はそれぞれ対応しているので


 
と表すことができます。よって

[q]

となり、実際の太陽の直径を求めることができます。

それでは太陽の直径が求められたので、1AUが何kmかを求めましょう。(図7)
太陽の視直径α(太陽の直径を角度で表したもの)を実際に測定すると約0.516度です。
太陽の視直径の測り方が気になる人は、こちらを見てください。
視直径と先ほど求めた太陽の直径(D)、地球・太陽間の距離は1AUだから



と表すことができます。よって

 [km]
となり、1天文単位が約1億5千万qになることを計算で求めることができます!!



<やってみよう!>
1AUの距離が分かったら、金星・地球間と金星・太陽間の距離も何kmか求めてみましょう。



金星の太陽面通過の観測にはいくつかの方法があります。太陽を直接見ることは大変危険なので、望遠鏡で太陽を投影する方法をおすすめします。この方法なら、安全に多勢で観測することができるでしょう。これまでに説明してきたことを使って、ぜひ1AUを求めてみて下さい。本当に1億5千万qになるのでしょうか?
そして日本は梅雨の時期に当たりますので、天気が晴れる事を祈りましょう!今回、私たちには130年ぶりに観測するチャンスが巡って来ました!ぜひ、この貴重なチャンスを生かして金星の太陽面通過を見てみませんか?

また、金星が太陽の前を通過していく様子を、このWebページでほぼリアルタイムに紹介していく予定です。詳しくは、「番組案内」や「中継システム」をご覧下さい。

<参考> NASA , Sun-Earth Day 2004 Venus Transit
http://sunearth.gsfc.nasa.gov/sunearthday/2004/vt_edu2004_venus_912.htm